住まいの老朽化は、誰もが直面する課題です。特に高齢の家族と暮らす場合、安全で使いやすい住環境の整備は待ったなしの課題となります。しかし、リノベーションは大きな投資を伴う決断。後悔しないためには、どのような点に注目して計画を進めればよいのでしょうか。

今回は、高齢者との安心な暮らしを実現するためのリノベーションの重要ポイントを、浜松市での実例を交えながらご紹介します。
 

段差のない空間
 

Point1:バリアフリー化による安全性の確保

<段差の解消>

生活空間の段差は、高齢者の転倒事故の主な原因となります。特に注意が必要な場所とその対策をご紹介します。
 

・玄関の式台やスロープの設置

まず玄関は、式台やスロープの設置が有効です。式台は踏み台として中間の高さを確保できるため、高齢者の負担を軽減できます。また、玄関ホールから居室への段差には緩やかな傾斜のスロープを設置することで、安全な移動が可能になります。

・段差部分の色を変えて視認性を高める

和室の敷居など伝統的な建築要素による段差は、できるだけフラットに改修することが望ましいですが、建物の構造上、完全な段差解消が難しい場合もあります。その場合は、段差部分の色を変えて視認性を高めたり、手すりを設置したりすることで、転倒防止を図ります。

・水回りの段差は特に危険

浴室や洗面所の出入り口の段差は特に危険です。床材の厚みを調整して段差を最小限に抑えるか、短いスロープを設置することで対応します。この際、床材は濡れても滑りにくいものを選択することが重要です。

【施工事例より】

今回ご紹介する事例では、91歳の母との3人暮らしを想定し、室内全体の段差解消を行いました。特に水回りは、床材の選定から手すりの設置位置まで、きめ細かな配慮がなされています。

 

階段の手すり

 

<手すりの設置>

手すりは、高齢者の自立した生活をサポートする重要な設備です。効果的な設置のポイントをご説明します。
 

・廊下や階段の手すり

廊下や階段では、日常的な移動をサポートする位置に手すりを設置します。片側だけでなく、可能であれば両側に設置することで、より安全な移動が可能になります。階段では、踊り場も含めて連続した手すりの設置が望ましいでしょう。

・トイレや浴室の手すり

トイレや浴室では、立ち座りの動作を補助する位置に手すりを設置します。便器に座った状態で手が届く位置、浴槽の出入りをサポートする位置など、実際の動作に基づいて設置位置を決定します。

・手すりの高さ設定

手すりの高さは、利用者の体格に合わせて設定することが重要です。一般的な設置高さは、床から75〜85cm程度が目安となりますが、利用者の身長や姿勢に応じて調整が必要です。

・手すりの素材選び

素材選びも重要なポイントです。水回りでは、濡れた手でも滑りにくい素材を選択します。また、握りやすい太さ(直径3〜4cm程度)のものを選ぶことで、より安全な利用が可能になります。

【施工事例より】

今回の事例では、「自然に手が伸びる位置」を重視して手すりが適切な位置に設けられています。高齢のお母様だけでなく、家族全員にとって使いやすい位置に設置されており、生活動作をスムーズにサポートしています。

 

玄関の手すり

 

Point2:水回りの安全性と使い勝手の向上

<浴室の改修ポイント>

浴室は高齢者の事故が最も多い場所の一つです。安全で快適な入浴を実現するためのポイントをご紹介します。

 

脱衣室

 

・床材の選定

脱衣室や洗面スペースなどの水回りの床材は、凹凸のある滑りにくい素材を選択しましょう。ただし、清掃のしやすさとのバランスも考慮が必要です。また、ユニットバスの床材には、最近は適度な滑り止め効果と清掃性を両立した製品も多く登場しています。実際にショールームで体感し、適切な製品を選びましょう。

・浴槽や洗い場

浴槽は、出入りがしやすい高さのものを選びます。一般的に縁の高さは50cm程度が目安ですが、利用者の身長や体力に応じて選択します。また、浴槽内の立ち座りをサポートする手すりの設置も重要です。
洗い場には腰掛けスペースを確保することで、立ったままの洗体による疲労や転倒リスクを軽減できます。最近のシステムバスには、折りたたみ式の椅子や、一体になった腰掛けスペースなど、様々なオプションが用意されています。

・水栓金具

水栓金具は、温度調節が容易なサーモスタット式を採用するのがおすすめです。高齢者や小さなお子さんが誤って熱湯が出るリスクを防ぎ、安全な入浴をサポートします。また、シャワーヘッドは、軽量で使いやすいものを選択しましょう。

 

浴室

 

【施工事例より】

実例では、トイレの位置を変更することで浴室を拡張し、ゆとりある空間を確保。高齢のお母様が安全で使いやすい浴室を実現しています。

<トイレの改修ポイント>

トイレは毎日必ず使用する場所であり、安全性と使いやすさの両立が特に重要です。

・将来的な可能性を考慮し、十分な広さを確保

十分な広さの確保が最優先ポイントです。将来的な介助の可能性も考慮し、便器の両脇に介助スペースを確保することが望ましいでしょう。具体的には、便器の正面に120cm以上、側面に75cm以上のスペースが目安となります。

・立ち座りがしやすい便器の選択

便器は立ち座りがしやすい高さのものを選びます。一般的な和式トイレの便座高さは36cm程度ですが、高齢者向けには40〜42cm程度の少し高めの製品がおすすめです。また、背もたれ付きの製品を選ぶことで、より安定した姿勢を保つことができます。

・手すりの適切な設置

手すりは、立ち座り動作を補助する位置に設置します。便器に座った状態で自然に手が届く位置を確認し、L字型やI字型の手すりを適切に配置します。

・足元を安全に照らす照明計画

照明計画も重要です。夜間でも安全にトイレを使用できるよう、足元を照らすフットライトの設置や、人感センサー付きの照明の採用を検討しましょう。

【施工事例より】

今回の事例では、トイレの位置を変更することで、より使いやすい動線を実現。手すりの配置や照明計画にも配慮し、安全で使いやすい空間となっています。

 

トイレ

 

<洗面所の改修ポイント>

洗面所は朝晩の身支度に使用する重要な場所です。安全で使いやすい空間とするためのポイントをご説明します。

・立ち座りができる洗面台がおすすめ

洗面台は、できれば立ち座りができるタイプの採用をおすすめします。車いすでの使用も視野に入れ、洗面ボウルの下にスペースを確保できる製品を選ぶことで、将来的な対応も可能になります。

・使用頻度を考慮した収納

収納は使用頻度を考慮して配置します。毎日使用する洗面用具は手の届きやすい位置に、予備の衛生用品などは適度な高さの収納スペースに配置するなど、使い分けを工夫します。

・滑りにくい素材の床材

床材は、水で濡れても滑りにくい素材を採用します。また、排水溝の位置や勾配にも注意を払い、水が溜まりにくい構造とすることで、より安全な空間となります。

Point3:明るく安全な空間づくり

 

廊下

 

<採光と照明計画>

視認性の確保は、安全な暮らしの基本となります。自然光と人工照明をバランスよく計画することで、快適な空間が生まれます。

・窓の配置や大きさの見直し

自然光を十分に取り入れるため、窓の配置や大きさを見直します。必要に応じて窓を大きくしたり、透明ガラスやすりガラスの建具を採用したりすることで、プライバシーを確保しながら明るさを確保できます。

・複数の照明の組み合わせ

昼夜を通じて適切な明るさを確保するため、複数の照明を組み合わせて使用します。全般照明に加え、手元を明るく照らすタスク照明や、雰囲気を演出するアクセント照明を適切に配置することで、目的に応じた明るさの調整が可能になります。

・段差部分や動線上の照明に留意

段差部分や動線上の照明は特に重要です。足元を照らすフットライトや、人感センサー付きの照明を効果的に配置することで、夜間の安全な移動をサポートします。

・スイッチの適切な配置

照明スイッチは、入室時にすぐ手が届く位置に設置します。また、複数の場所からの点灯が可能なように、スイッチを適切に配置することも重要です。

【施工事例より】

今回の事例では、以前は和室があったために暗かった空間に、すりガラスの建具を採用することで明るく柔らかな光を取り入れました。照明計画の見直しと合わせて、明るく安全な空間を実現しています。
 

リビングダイニング

 

<動線計画の見直し>

効率的で安全な動線計画は、住まいの使いやすさを大きく左右します。

・同一階に生活空間を集約

主要な生活空間は、できるだけ同一階に集約することをお勧めします。特に、寝室、トイレ、洗面所など、夜間に使用する可能性の高い空間は、なるべく近い位置に配置することで、移動の負担を軽減できます。

・収納や設備は使用頻度に応じて配置

収納や設備は、使用頻度に応じて適切に配置します。毎日使用するものは手の届きやすい位置に、季節物など時々使用するものは多少離れた場所に配置するなど、使い分けを工夫します。

・通路幅にはゆとりを確保

通路幅は、将来の車いす使用も視野に入れて十分な広さを確保します。一般的な通路幅は80cm以上が目安ですが、車いす使用を考慮する場合は90cm以上が望ましいでしょう。

家具の配置も動線計画の重要な要素です。通路をふさがない配置を心がけ、必要に応じて家具の大きさや形状を見直すことで、より安全な動線を確保できます。

【施工事例より】

築40年の3階建て住宅という制約がある中で、トイレの位置変更や収納の見直しにより、より使いやすい動線を実現しています。
 

玄関

 

まとめ:安全性を確保するために必要なリフォーム工事

このように、高齢者との快適な暮らしを実現するリノベーションでは、バリアフリー化による安全性の確保と、水回りの改修が最も重要なポイントとなります。特に、段差の解消や手すりの設置、浴室・トイレ・洗面所の改修は、安全性の確保において優先度の高い工事となります。

次回の後編では、明るく安全な空間づくりや、冷暖房効率の向上、将来を見据えた設備選びなど、快適な住まいを実現するための具体的なポイントについてご紹介していきます。

(後編へ続く)

 

Writer>>>中村建設(株)住宅事業部 家づくりアドバイザー 中村真由美

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